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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

そのあいだに民部は、なにごとかひくい声で、咲耶子にささやいたようであった。かしこい彼女は、黙々として聞えぬふりで歩いていたが、その瞳は、ときどき意外な表情をして民部にそそがれた。そんな、こまかいふたりの挙動は、はるかあとから騎馬でくる梅雪の目に、べつだんあやしくもうつらなかった。

やがて、裾野の野道がつきて、長い森林にはいってきた。そこをぬけると、青いさざなみが、木の間から見えだした。

「おお湖水へでた! 湖が見えた!」

軍兵どもは、沙漠に泉を見つけたように口々に声をもらした。そのほとりには、小さな社があるのも目についた。つかつかと社の前へあゆみ寄った小幡民部は、「白旗の宮」とあるそこの額を見あげながら、口のうちで、「白旗の宮? ……源家にゆかりのありそうな……」とつぶやいて小首をかしげたが、ふいと向きなおって、こんどはおそろしい血相で、咲耶子をただしはじめた。

「これッ。武田家の宝物をしずめた湖水は、ここにそういあるまい、うそいつわりをもうすと、痛いめにあわすぞ、どうじゃ!」

「は、はい……」咲耶子は、にわかに神妙になって、そこへひざまずいた。

「もうお隠しもうしても、かなわぬところでござります。