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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
伊那丸と忍剣が智慧をしぼって世の中からかくしておいた宝物も、こうして、苦もなく発見されてしまった。まもなく梅雪入道の床几の前へ運ばれてきたものは、真青に水苔さびたその石櫃。
「殿さま、ご苦心のかいあって、いよいよご開運の秘宝もめでたく手に入りました。祝着にぞんじまする」
里人たちに恩賞をやって追いかえしたのち、民部はそばから祝いのことばをのべた。
「そのほうの手柄は忘れはおかぬぞ。この宝物に伊那丸の首をそえてさしだせば、いかにけちな家康でも、一万石や二万石の城地は、いやでも加増するであろう。そのあかつきには、そのほうもじゅうぶんに取りたて得さす」
「かたじけのうぞんじます。しかし、お望みの物が手にはいったからは、いっこくもご猶予は無用、この場で伊那丸を首にいたし、あの鎖駕籠へは宝物のほうを入れかえにして、寸時もはやく家康公へおとどけあるが上分別とこころえます」
「おお、きょうのような吉日はまたとない。いかにもこの場できゃつを成敗いたそう、その介錯もそちに命じる! ぬかるな!」
「はッ、心してつとめます」
梅雪の目くばせに、きッとなって立ちあがった民部はすばやく下緒を取って襷となし、刀のつかにしめりをくれた。