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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

かれの偉さがひくくなるものではない。民部の本領はどこまでも、奇策無双な軍学家というところにあるのだから。

だが、それほど智恵のある民部が、なんで、こんな苦しい血戦をみずからもとめ、みずから不得手な太刀を持って斬りむすぶようなことをしたのであろう。なぜ、もっといい機会をねらって、らくらくと伊那丸を救わないのか。

民部ははじめ、こう考えた。

穴山梅雪の領内、甲州北郡の土地へはいってからでは、伊那丸を助けることはよういであるまい。これはなんでも途中において目的をはたしてしまうのにかぎる。――でかれは、出発にさきだって鞍馬の果心居士、小太郎山の龍太郎、小文治などの同志へ通牒をとばしておいた。

ところが、裾野へかかってきた第一日に、咲耶子という意外なものがあらわれた。かれは少女のふしぎな行動を見て、ははアこれは伊那丸君を救おうという者だナ、と直覚したが、なにしろ、梅雪の警固には、四天王をはじめ、手ごわい旗本や郎党が百人近くもついているので、あくまで入道をゆだんさせるため、奇計をもって咲耶子を生けどり、なお、心ひそかに、待つ者がくるひまつぶしに、この湖水までおびきよせたのだ。