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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

それはたくましい重籐の弓を小わきに持った若い、そしてりんりんたる武芸者であるから。

梅雪は本能的にさけんだ。

「おおよいところで! 余は甲州北郡の領主穴山梅雪じゃ、いまわしのあとより追いかけてくる裾野の盗賊どもを防いでくれ、この難儀を救うてくれたら、千石二千石の旗本にも取り立て得させよう。いいや恩賞は望みしだい!」

「さては遠くから見た目にたがわず、そのほうが穴山梅雪入道か」

「かかる姿をしているからとて疑うな、余がその梅雪にちがいないのじゃ、そちが一生の出世の蔓は、いまとせまったわしの危急を救ってくれることにあるぞ」

「だまれ、やかましいわいッ」わかき武芸者は、その頬ぺたをはりつけんばかりにどなりつけて、

「音にひびいた甲州の悪入道。よしやどれほどの宝を捧げてこようと、なんで汝らごとき犬侍のくされ扶持をうけようか、たいがいこんなことであろうと、汝の逃足へ遠矢を射たのはかくもうすそれがしなのだ」

「げッ、さてはおのれも」

絶望、驚愕、憤怒!

奈落へ突きのめされた梅雪は、あたかも虎穴をのがれんとして、龍淵におちたような破滅とはなった。もうこのうえはいちかばちか、命はただそれ自分をたのむことにあるのみだ。