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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

一ぽう、山大名の呂宋兵衛は裾野へかくれた咲耶子の行動にゆだんせず、毎日十数人の諜者をはなっている。

きょうも、途中雷雨にあって、ズブぬれとなりながら野馬をとばして人穴へかえってきた三人の諜者は、すぐ呂宋兵衛のまえへでて、五湖のあたりにおこった急変を注進した。

「おかしら、一大事でございます」

「なに、一大事だ」

身はぜいたくをしているが、心にはたえず不安のある呂宋兵衛は、琥珀の盃を手からおとし、さらに、諜者のさぐってきたちくいち――伊那丸と咲耶子のうごきを聞くにおよんで、その顔色はいちだんと恐怖的になった。

「むウ、ではなにか、武田伊那丸のやつらが、穴山梅雪を討ちとり、また湖水の底から宝物の石櫃を取りだしたというのか。あのなかの御旗楯無は、とッくにこっちで入れかえて、売りとばしてしまったからいいようなものの、それと知ったら、伊那丸のやつも咲耶子も、一しょになってここへ押しよせてくることは必定だ。こいつは大敵、ゆだんがならねえ、すぐ手配りして、要所要所を厳重にかためろ」

立ちあがって、わめくようにいいつけた時、石門から取次ぎを受けた野武士のひとりが、ばらばらと進んできて口ぜわしく、