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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「おのれッ!」

「怨敵」

敵将のすがたを目のあたりに見て、なんのひるみを持とう。伊那丸は太刀をふりかぶり、咲耶子は薙刀の柄をしごいて八幡! 十字架の根もとをねらって斬りつけた。

と――ほとんど同時である。

伊那丸がたの軍師、小幡民部は、無二無三に駒をここへ飛ばしてきながら、

「やあ、待ちたまえ若君。かならずそれへ近よりたもうな。あ、あ、あッ、危ないッ!」

と、かれは狂気ばしって絶叫した。

が――その注意はすでに間に合わなかった。

ふたりのえものは、もう、ザクッと十字架のかげを目がけてふりこんでしまった。と見るまに、ああ、そもなんの詭計ぞ、足もとから轟然たる怪火の炸裂。

ぽかッと、渦をふいた白煙とともに、宙天へ裂けのぼった火の柱、同時に、バラバラッとあたりへ落ちてきたいちめんの火の雨――それも火か土か肉か血か、ほとんど目を開けて見ることもできない。

二

すさまじい雷火の焔が、パッと立ったせつな、ゲラゲラゲラと十字架のかげで大きく笑う声がした。

怪人呂宋兵衛の目である。口である。

悪魔の面! それがあざわらった。

「あッ――」

伊那丸の馬は、蹄を蹴って横飛びにぶったおれた。