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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

またそれを敵とした日には、とうてい天下の覇をあらそう大事業などは、はかどりっこないのである。

ここの富士浅間の山大名はなにものかというに、鎌倉時代からこの裾野一円にばっこしている郷士のすえで根来小角というものである。

つれこまれた伊那丸は、やがて、首領の小角の前へでた。獣蝋の燭が、まばゆいばかりかがやいている大広間は、あたかも、部将の城内へのぞんだような心地がする。

根来小角は、野武士とはいえ、さすがにりっぱな男だった。多くの配下を左右にしたがえて、上段にかまえていたが、そこへきた姿をみると座をすべって、みずから上座にすえ、ぴったり両手をついて臣下にひとしい礼をしたのには、伊那丸もややいがいなようすであった。

「お目どおりいたすものは、根来小角ともうすものです。今日は雑人どもが、礼をわきまえぬ無作法をいたしましたとやら、ひらにごかんべんをねがいまする」

はて? 残虐と利慾よりなにも知らぬ野盗の頭が、なんのつもりで、こうていちょうにするのかと、伊那丸は心ひそかにゆだんをしない。

「また、武田の若君ともあるおんかたが、拙者の館へおいでくださったのは天のおひきあわせ。