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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
と、なににおどろいたものか、昌仙の顔いろが、サッと変って、ふいに、
「あああ」
と望楼の柱につかまりながら身をのばした。見れば、はるかかなたの火が、風に吹き散らされた蛍のごとく、算をみだしてきはじめたのだ。
「むウ」
思わず重くるしいうめき声。
「しまった! あの竹童という小僧の奇策にはかられた。もうおそい――」
と、かれがもらした痛嘆のおわるかおわらぬうち、遠き闇にあたって、ズーンと立った一道の火柱、それが消えると、一点の微光もあまさず、すべてを暗黒がつつんでしまった。
「それ見ろ! このほうがいったとおりだッ」
昌仙は手をのばして、いきなり天井へ飛びつき、そこにたれていた縄の端をグイと引いた。と、――人穴城の八方にしかけてある自鳴鉦がいっせいに、ジジジジジジジジッ……とけたたましく鳴り渡る。
これ、大手一の門二の門三の門、人穴門、水門、間道門の四つの口、すべて一時に護るための手配。いうまでもなく出門は厳禁。無断持場をうごくべからず――の軍師合図。
さらに、櫓番へ声をかけて、部下の一人で、もと道中かせぎの町人であった、燕作という者をよびあげ、かねて用意しておいたらしい一通の密書をさずけた。