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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「がってんだ」と燕作が家のあたりを見まわしてきて、

「だれもあやしいような者はいない。ないているのは鹿ぐらいなもの――」

というと、蚕婆は、はじめて安心して、じぶんのすわっている下の蓆を、グルグルと巻きはじめた。

おやと、燕作がびっくりしている間に、さらに、二畳敷ほどな床板をはねあげると、縁の下は四角な井戸のように掘り下げられてあった。顔をだすと、つめたい風がふきあげてくる。

「ここをおりると、あとは人穴城の地下洞門のなかまで三十三町一本道でいけますのじゃ、さ、人目にかからないうちに、すこしもはやく、おこしなさるがよい」

と蚕婆がせきたてると、才蔵は、間道の口をのぞいてから、ふいと顔をあげて、

「婆、杖にして飛びこむから、長押にかかっているその錆槍を、かしてくれい」

と指さした。婆は彼のいう通り、石突きをたよりに、下へ降りるのであろうと、なんの気なしに取って渡すと才蔵は、

「かたじけない」

と受けとって、ポンと、槍の石突きを下へ降ろすかと見るまに、意外や、電光石火、

「やッ――」

と一声、錆槍の穂先で、いきなり真上の天井板を突いた。とたんに、屋根裏を獣がかけまわるような、すさまじい音が、ドタドタドタ響きまわった。