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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
「あやしい声がする」
「えッ」
「しずかに」
ぴたりと、ふたりは槍とともに落葉のなかへ身をふせてしまった。そして、ややしばらく、耳と目を研ぎすましていたが、それっきり、いまのいびきも聞えなくなったので、甲虫はふたたび身をおこして、いずこともなく立ちさった。
あとは、またものさびしい落葉の舞い。
暮れんとして暮れなやむ晩秋の哀寂。
ぎい……とふいに、白旗の宮の狐格子がなかからあいた。そして、むっくり姿をあらわしたのは、なんのこと、鞍馬山の竹童であった。
「あぶない、あぶない。もうこんなほうまで、徳川家の陣笠がうろついてきたぞ。ところで、おいらは、いよいよ、今夜お師匠さまのおいいつけをやるのだが、それにしては、もうそろそろどこかで、鬨の声があがってきそうなもの……どれ、ひとつ高見から陣のようすをながめてやろうか」
ひらりと、宮の縁から飛びおりるがはやいか、湖畔にそびえている樅の大樹へ、するするすると、りすの木のぼり、これは、竹童ならではできない芸当。
数丈うえのてっぺんに、烏のようにとまった竹童、したり顔して、あたりの形勢をとくと見とどけてのち、ふたたび降りてくると、こんどは、白旗の宮の拝殿にかくしておいた一たばの松明をかつぎだしてきた。