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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「なにもしてやしないさ、餌をやっているんだ」

「よけいなことをしてくれなくってもいい、さっきも、おいらが鹿の股を二つやったんだから」

「ああ、竹童さんにも、おれが土産を持ってきたぜ、きょうは焼栗だ、ふたりで仲よく食べようじゃないか」

「いやにこのごろは、おいらにおべっかを使うな、そんなにおせじをつかってきたって、もう、そうはちょいちょい鷲に乗せてやるわけにはゆかないぜ」

「そんなことをいわないで、おれを弟子にしてくれよ、な、たのまあ、そのかわりに、おまえのためなら、おれはどんなことだって、いやといわないからよ」

「きっとか」

「きっとだ!」

「じゃ。さっそく一つ用をたのもうかな」

「たのんでくれよ、さ、なんだい」

「大役だぜ」

「いいとも」

「他人の用ばかりしていると、おまえの主人の鼻かけ卜斎に、叱られやしないか」

「大じょうぶだってことさ、おらあもうあすこの家をとびだして、いまでは徳川家の……」

と、いいかけて、さすがの低能児も、気がついたらしく、口をにごらしながら、

「いまじゃ、天下の浪人もおんなじ体なんだ」

「ふうむ……じゃね、これからおいらのために、ちょっとそこまで斥候にいってくれないか」