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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
「味方は小勢なれども、正義の戦い。弓矢八幡のご加勢があるぞ。われと思わんものは、人穴城の一番乗りをせよや」
同時に、きッと、馬首を陣頭にたてた伊那丸は、かれのことばをすぐうけついで、
「やよ、面々、戦いの勝ちは電光石火じゃ、いまこそ、この武田伊那丸に、そちたちの命をくれよ」
凛々たる勇姿、あたりをはらった。さしも、烏合の野武士たちも、このけなげさに、一滴の涙を、具足にぬらさぬものはない。
「おう、この君のためならば、命をすててもおしくはない」
と、骨鳴り、肉おどらせて、勇気は、日ごろに十倍する。
たちまち、進軍の合図。
さッと、民部の手から二行にきれた采配の鳴りとともに、陣は五段にわかれ、雁行の形となって、闇の裾野から、人穴城のまんまえへ、わき目もふらず攻めかけた。
「わーッ。わーッ……」
にわかにあがる鬨の声。
「かかれかかれ、命をすてい」
いまぞ花の散りどころと、伊那丸は、あぶみを踏んばり、鞍つぼをたたいて叫びながら、じぶんも、まっさきに陣刀をぬいて、城門まぢかく、奔馬を飛ばしてゆく。
と見て、帷幕の旗本は、
「それ、若君に一番乗りをとられるな」
「おん大将に死におくれたと聞えては、弓矢の恥辱、天下の笑われもの」