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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
「そうだ、そうだ」とばかり、あとからつづく人数のなかにまぎれこみ、まんまと、八風斎の目をくらまして越前落ちのとちゅうから、もとの裾野へ逃げてもどってしまった。
「おお、あの矢さけび、火の手もみえる、流れ矢もとんでくるわ、この一時こそ一期の大事、息もつかずに、いそげいそげ!」
人無村をかけぬけて、渺漠たる裾野の原にはいると、黒馬の将は、鞍のうえから声をからして、はげました。雨ヶ岳の火はまだ赤々ともえている。
「敵!」
「敵だッ!」
「討て!」
と、俄然、前方の者から声があがった。四、五間ばかりの小石河原、そこではしなくも、徳川家の先鋒、内藤清成の別隊、四、五十人と衝突したのである。
暗憺たる闇いくさ、ただものすごい太刀音と、槍の折れる音や人のうめきがあったのみで、敵味方の見定めもつかなかったが、勝負は瞬間に決したと見えて、前の蛇形陣は、ふたたび一糸みだれず、しかも足なみいよいよはやく、人穴城の山下へむかった。
「おうーい、おうーい」
かけつつ馬上の将は何者をか呼びもとめた。それにつづいて、陣笠の兵たちも、かわるがわる、声をからして、おーい、おーいとつなみのように鬨の声を張りあげた。