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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

そして、ポンと、そとの扉を閉めるがはやいか、もときた望楼へ、息もつかずにかけあがってくる。

「ありがたい、ありがたい。これで人穴城の蛆虫どもは、間もなくいっぺんに寂滅だ。伊那丸さまも、およろこびなら、お師匠さまからも、たくさん褒めていただかれるだろう」

望楼に立って、手をふった竹童、待たせてあるクロが飛び去っては一大事と、大いそぎで、欄間から棟木へ手をかけ、棟木から屋根の上へ、よじ登ろうとすると、

「小僧、待て!」

ふいに、下からグングンと、足をひッぱる者があった。

「あ! あぶない」

「降りろ、神妙におりてこないと、きさまのからだは、この望楼からころがり落ちていくぞ」

「あ、しまった」

竹童はおどろいた。

平地とちがって、からだは七階の櫓のすてッぺんにあった。棟木へかけている五本の指が、命をつっているようなもの、ひとつ力まかせに下からひっぱられたひには、たまったものではない。

「降りろともうすに、降りてこないか」

「いま降りるよ、降りるから、手をはなしてくれ、でなくッちゃ、からだが自由にならないもの」

「ばかを申せ、はなせば、上へあがるんだろう」

足をつかんでいる者はゆだんがない。