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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

旅の男というのは、鼻かけ卜斎の八風斎であった。越後路へむかっていくかれは、蛾次郎を見うしなって、ひとりとなり、昨夜はこの部落で、一夜をあかした。

「わざわざ恐れいりまする」

と、年かさな矢作が、卜斎のまえへ、小腰をかがめながら、ていねいにききだした。

「あなたさまは、裾野からおいでになった鏃師とやらだそうでござりますが、あのとおりな黒煙が、二日二晩もつづいて立ちのぼっているのは、いったいなんなのでござりましょう」

「あれかい」卜斎はくだらぬことに、呼びとめられたといわんばかりに、

「あれはたぶん、人穴の殿堂が焼けたのでしょう」

「へえ、人穴の殿堂と申しますると」

「野武士の立てこもっていた山城――和田呂宋兵衛、丹羽昌仙などというやつらが、ひさしく巣をつくっていたところだ。それもとうとう時節がきて、あのとおり、焼きはらわれたものだろう」

「ああ野武士ですか、野武士の城なら、いい気味だ」

「お富士さまの罰だ」

と、里人はにわかにほッと安心したばかりか、日ごろの欝憤をはらしたようにどよみ立った。

するとまた二、三の者が、

「あ、だれかきた」と叫びだした。

見ると鳥刺し姿の可児才蔵が、山路をこえてこの部落にはいってきたのだ。