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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
丹羽昌仙はきッと見て、
「ウーム、きゃつめ、伊那丸方の斥候にきおったな」
と拳をにぎったが、かれの軍学も空へはおよばず、蚕婆の吹針も、ここからはとどかず、ただ唇をかんでいるまに、鷲はいっさんに裾野をさしてななめに遠のく。
「呂宋兵衛さま、もうこうはしておられませぬ」
さすがの昌仙が、ややろうばいして腰をうかすと、いつも臆病な呂宋兵衛が、イヤに落着きはらって、
「なアに、大丈夫」
と苦っぽく嘲笑い、じッと、鷲のかげを見つめていたが、やがて、右手に持っていた金無垢肉彫りの鷹の黄金板――それはいまの塔内から引ッぺがしてきた厨子の金物。
「はッ……、はッ……」
と三たびほど息をかけて、術眼をとじた呂宋兵衛、その黄金の板へ、やッと、力をこめて碧空へ投げあげたかと思うと、ブーンとうなりを生じて、とんでいった。
「あッ」
「オオ」
と丹羽昌仙も蚕婆も、おもわず金光の虹に眼をくらまされて、まぶしげに空をあおいだが、こはいかに、その時すでに、黄金板のゆくえは知れず、ただ見る金毛燦然たる一羽の鷹が、太陽の飛ぶがごとく、びゅッ――と竹童の鷲を追ッかけた。
これは、前身悪伴天連の和田呂宋兵衛が、蛮流幻術の奇蹟をおこなって、竹童を、鳥縛の術におとさんとするものらしい。