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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
天性、石なげの妙をえた蛾次郎が、邪魔物のない頭の上からねらいうちするのだからたまらない、さすがの燕作も手むかいのしようがなく、あわてまわって、竹童のからだを横わきに引っかかえるや否、小山の降り口へむかって、一足とびに逃げだした。
が――一せつな、蛾次郎がさいごの力をこめた飛礫がピュッと、燕作のこめかみにあたったので、かれは、急所の一撃に、くらくらと目をまわして、竹童のからだを横にかかえたまま、粘土の急坂を踏みすべって、竹林のなかへころがり落ちていった。
「やあ、いい気味だ、いい気味だ! ひっヒヒヒヒヒ」
白い歯をむきだして、虚空に凱歌をあげた蛾次郎は、口にくわえていた細竹の杖を持ちなおし、ここ、竹童そッくりの大得意。
「さ、クロ、あっちへ飛べ」
南――遠江の国は浜松の城、徳川家康の隠密組菊池半助のところを指して、いっきに鷲をかけらせた。
幸か不幸か、いま竹童は息の根絶えてそれを知らない。醒めてのち、かれが天下なにものよりも愛着してやまないクロが、蛾次郎のため盗みさられたと知ったら、その腹立ちはどんなだろう。
三
ゴットン、ゴットン、ゴットン……
水車の諧調に、あたりはいつか、たそがれてきた。