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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「いやいやそうともいえぬ、しかしそのことばかりは、ただ天これを知るのほか、凡夫な居士には予察ができぬ」

と、果心居士はふかくもいわず口をにごして話頭一転。

「それはとにかく、法師野に陣ぞろいいたしている伊那丸君や龍太郎などは、さだめし、そちの見えぬのをあんじているであろう」

「ここで狼煙をあげたッきりですから、ほんとうにしんぱいしていられるかもしれません」

「ウム、少しもはやく、ご幕下へはせくわわって、このうえとも、伊那丸さまのおんために働けよ」

「はい」

「わしも、もういちど鞍馬のおくにこもって、星座を観じ、天下の風雲をうかがい、機あらばあらわれ、変あらば退いて、伊那丸さまの善後の策を立てるかんがえ。――では竹童、またしばらくそちにも会わぬぞ」

「あッ、お師匠さま――」

竹童が声をあげて呼ぶうちに居士のすがたは、風のごとく竹林をぬって、見えなくなった。

ふたたび法師野にあたって聞ゆる法螺の音――。すでに夜はまったく明けはなれて、紫金紅流の朝雲が、裾野の空を縦横にいろどっていた。

二

多宝塔を中心として、施無畏寺の庭に陣ぞろいした武田の軍勢は、手負い討死の点呼をしたのち、伊那丸の命令一下に、またも一部の軍卒が、法師野の部落を八方にかけわかれる。