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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

しかも拝領したその刀は、武田家伝来の名刀般若丸尺七、八寸の丁字みだれ、抜くにも手ごろ、斬るにも自在な反り按配、かの泣き虫蛾次郎がじまんする、あけび蔓をまいた山刀などとは、質がちがう。

これからは竹童も、鞍馬いらいの棒切れをすてて、一人前の大人のように、玉ちる刃で敵にむかうことができる。

もう、早足の燕作ごときは、一刀のもとに斬ッても捨てられるんだ。

長いあいだの希望がかなって、さだめしこおどりしたろうと思うと、スゴスゴとご前をさがった竹童、般若丸の太刀をいだいて、ひとけなき陣屋のすみで、ひとりシクシクと泣きはじめた。

三

「はてな? ……」

龍太郎は眉をひそめて、そッと、竹童のあとについていった――見るとそのありさま。

「ウーム。こりゃふしぎだ。鞍馬の奥にいたころから、泣いたことのない竹童だが……」

すきまからのぞき見をしていた龍太郎、こうつぶやきながら、しばらく考えていたが、やがて、

「こりゃ、竹童、なんでこんなところに泣いているのだ」

幕をはらって、やさしくかれの背なかをたたいた。

竹童はふいに声をかけられて、恥ずかしそうに、泣き顔をかくしながら、

「いいえ、なにも泣いてなんかいやしません」