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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「いやいった! 不埒なやつめ」

「だって、だってそいつはむりでしょう。あなたさまこそ、竹童の鷲をぬすんでくれば、徳川家の武士に取りたててやる。褒美はなんでも望みしだいと、向田ノ城でおっしゃったじゃありませんか」

「ばかッ。いやはやあきれかえった低能児だ。汝のようなうすのろを、戦の用に立てようとしたのが半助の大失策、ご当家の軍勢が裾野陣へくりだすときに間にあってこそ、鷲もご用に立つとおもって申したのだ。それをなんだ、すでに戦もすみ、軍勢もひいてしまった今日のめのめといまごろ鷲をぬすんできたとてなんになるかッ。あのここな慾張り小僧めッ」

ピシリッ、と頬げたを一つくらわしたうえ、足をもって門外へけとばすと、さっきの小侍や仲間などが下水の水をくんで、蛾次郎の頭からぶっかけ、門をしめて笑いあった。

半死半生の泥ねずみとなって、泣くにも泣けぬ蛾次郎先生、命からがら浜松の城下を、鷲にのって逃げだしたはいいが、夜に入るにしたがって、空天の寒冷は骨身にてっし、腹はへるし、寝る場所のあてはなし、青息吐息の盲飛行、わるくすると先生、雲のなかへ迷子となってしまいそうだ。

されば、村正の斬れあじも、もつ人の腕しだいであるし、千里の駒も乗り手による。