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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
いや、蝙蝠にかぎることはない、なんでも動物霊気の感応を必要とするのだから、ねずみでも猫でもいいが、いまこの塔中には蝙蝠よりいないのだから、ぜひそれへ指でもふれたいのである。
しかし、なかなか蝙蝠のほうでちかづいてくれない。
たまに、頭の上へはってきたなとおもって、体をよせていくと柱にしばりつけてある鎖がガチャッと鳴るので蝙蝠はびっくりして天井へはねあがる――が、六角形の密室なので、そとへはでずにまたバサバサと板壁に羽すべりをしてきた。
こんど近くへきたらのがすまいと、呂宋兵衛は息をころした。けんめいになるとおそろしいもの、かれの額は魚の油を塗ったように汗ばんでいる。
けれど、蝙蝠の敏覚に、七たび八たびおなじことをくりかえしても、呂宋兵衛の努力はむなしかった。はやくも里では一番鶏がなく、かれは気が気でなくなった。
そこで、呂宋兵衛はまた考えなおした。
かれは坐禅を組むようにすわった。そして、さいごにもういちど蝙蝠が壁をすべってくるのを待ちかまえこんどは、口に呪をとなえて、つーッと一本のほそい絹糸のような線を吐きだした。
と思うと――一ぴきの小さな金蜘蛛が、呂宋兵衛の口からスススススと、その細い糸をつたわりだした。