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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
これ、さっきは、瓔珞の頑丈をたよって不覚をとったが、こんどは、果心居士相伝の浮体の法をじゅうぶんにおこなっているためだ。
そのかわり、龍太郎、最後の頂上へのぼるにはだいぶ手間がとれている。片足を瓔珞の鈴環にかけ、そろそろと手をのばして、屋根の青銅瓦に半身ほど乗りだしたところで、小文治のさしだした槍をつかんでやる。
巽小文治は、もとより果心居士の門下でないから、浮体の息を知らない。したがってただ度胸のはや業。槍の一端を塔の角金具にひっかけ、いっぽうを龍太郎につかんでいてもらって、スッと瓔珞の鈴環へ足をかけると、ともに、ふたりの重みがかかっては危ないので、龍太郎はすばやく上へはいあがった。
とたんに、雨とも見えぬ空合なのに、塔の先端九輪の根もとから、ザーッと滝のような水がながれてきて、塔の四面はさながら、水晶の簾珠をかけつらねたごとく、龍太郎の身も小文治のからだも、水の勢いでおし流されそうにおぼえた。
「呂宋兵衛の妖術だ、まことの水ではない、小文治どのひるむなッ」
龍太郎は果心居士の手もとにいただけに、幻術しのびの技などには多少の心得がある。いま、九輪の根もとから吹いてきた水勢もてっきり、呂宋兵衛の水龍隠れの術とみたから、こう注意して、無二無三に青銅瓦の大屋根へ踏みあがった。