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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
「おい」
と、いけぞんざいに呼びかけて、
「おめえたち、上方のほうへいきてえなら船をだしてやろうか。越前へでも若狭へでも着けてやるぜ」
「それはかたじけない。しかし、そこにあげてあるような小舟ではどうにもならぬ」
「いや、長崎から越後港へ、南蛮呉服をつんできた親船が、この沖にとまってるんでさ。どうせ南へ帰る便船だ、えんりょなく乗っていくがいい」
船頭は空船の艫をおして、砂地から海のなかへ突きだした。そして呂宋兵衛、卜斎のふたりを乗せるや否、勢いよく櫓柄をとって、沖の親船へ漕ぎだした。
まもなく、海潮けむるかなたの沖に長崎型の呉服船、紅帆船の影らしいのが、だんだん近く見えはじめる。
三
紅がら色の帆に、まんまんたる風をはらんだ呉服船はいま、能登の輪島と七つ島の間をピュウピュウ走っている――
カーン カーン カーン……
船楼の鐘。
もう真夜中であろう、風はないほうだがかなり高波。パッと、舳にくだける潮の花にもうもうたる霧が立ってゆく。
その霧のなかに、ブランブランと、人魂のようにゆれている魚油のあかり。ギリギリ、ギリギリと帆綱のきしむ気味の悪さ……
「やい、起きろッ」