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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「城中のくらがりで、たしかに汝の手へわたしたはず」

「ごじょうだんを……この婆はおまえさんがはたらくまえに、逃げだしたんじゃないか」

「はてな? するとあの手はだれだろう」

早打ちの男か、またサクサクとここへ雪の峠越えをしてきたものがある。頬かむりの上に藁帽子、まるで、顔はわからないが蓑の下から大小の鐺がみえた。

ふたりの前をとおりかかって、

「吹雪がくる――、追手もくるぞ」

ヘンなことをいって通りすぎた。

「なるほど、また北から黒い雲がまいてきた。日の暮れないうち麓の宿へたどりつこう」

呂宋兵衛と蚕婆は、また伴天連になりすます約束でサクリ、サクリと歩きはじめた。

案の定、ドーッと、陣太鼓をぶつけるような吹雪がきた。燃えのこった焚火が雪にまじって、虚空に舞い、歓喜天の堂の扉もさらってゆかれそう。このぶんで一晩ふったら、お宮も埋もって山の木がみんな二、三尺になるかも知れない。

「オオ寒ッ!」

いたたまれないで、お堂のなかから飛びだしたはひとりの少年。寒いはずだ、膝行袴に筒袖の布子一枚、しかし、腰の刀は身なりにも年にも似あわぬ名刀の銀づくり。

「こんな雪が降ってるうちは、クロも空をとべないだろう。