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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
酔ッぱらったみなさまがさわいでいると、せっかくのお客も逃げてしまいます。早くあっちへいってください」
「無愛想なやつだ。買うからねだんを聞いているのだ」
「金子五十枚、びた一文もまかりません。はい」
「たかい、銅銭五十枚にいたせ、買ってくれる」
「いけません、まっぴらです」
「ふらちなやつだ。だれがこんなボロ鎧に、金五十枚をだすやつがあるか、バカめッ」
玄蕃が土足をあげて蹴ったので、鎧はガラガラとくずれて土まみれになった。こんならんぼうは、泰平の世には、めったに見られないが、あけくれ血や白刃になれた戦国武士の悪い者のうちには、町人百姓を蛆虫とも思わないで、ややともすると、傲慢な武力をもってかれらへのぞんでゆくものが多かった。
「山師めッ」
ほかの武士どもも、口を合わせてののしった上に鎧を踏みちらして、どッと笑いながら立ちさろうとした時、若者の眉がピリッとあがった。――と思うまに、朱柄の槍は、いつか、その小脇にひッかかえられていた。
「待てッ」
「なにッ」とふりかえりざま、刀の柄へ手をかけた五人の、おそろしい眼つき。
すわと、弥次馬は、潮のごとくたちさわいだ。――と、その群集のなかから、まじろぎもせずに、朱柄の槍先をみつめていた白衣の六部と、ひとりの貴公子ふうの少年とがあった。