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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

たが、やがてきわめてひくい声で、

「さてさて珍しい刀をみることじゃ」

感慨無量な語調をこめて、瞳もはなたずつぶやいた。

「見るもなつかしいことである。これはまぎれもなき伊那丸の守り刀……」

「わたしも、しかとさように心得ますが」

「つきぬ奇縁じゃ……おもえばふしぎな刀とわが身のめぐりあわせのう」

「御意にござります、あれにたおれている少年を介抱して、ひとつしさいをただしてみましょうか」

「いや、世をしのぶ身じゃ。それはソッと少年の鞘にもどしておいたほうがよい」

「しかしなにやら、苦しんでおりますものを、このまま見捨ててまいるのもつれないようにぞんじますが」

「オオ、では、河原の水でもすくってきてやれい。じゃが、夢にも刀のことはきかぬがよいぞ。訊けばこなたの素性も人に気どられるわけになる」

「しょうちいたしました……」

と、ひとりが河原へ下りていくと、ひとりは竹童を抱きおこして活をいれ、口に水をあたえただけで、ことばはかけずにスタスタといき過ぎてしまった。

「ア痛……どなたですか……ありがとうございました。ありがとうございました……」

竹童は遠退く跫音へいくども礼をいったが、両手で顔をおさえているので、それがどんな風の人であったか、見送ることができなかった。