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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

だされたら虻蜂とらずじゃ、ええ、あの半間の燕作のやつ、いったいどこへいってしまったのだろう」

ブツブツ口小言をいいながら、濠のまわりをいきつもどりつしていると、向こうから足をはやめてきた男が、ひょいと木を楯にとって、

「だれだ! そこにいるなあ?」

と、ゆだんのない目を光らした。

「おや、おまえは燕作じゃないか」

「なアんだ、婆さん、おめえだったのか」

と、声に安心して、早足の燕作、木のそばをはなれて蚕婆のほうへのそのそと寄ってきた。

「どうしたんだい、半間にもほどがあるじゃないか」

と婆は燕作を息子のように叱りつけて、

「竹童みたいな小僧には斬りまくられ、旅僧ににらまれればすぐ逃げだすなんて、いくら町人にしても、あまり度胸がなさすぎるね」

「婆さん婆さん、そうガミガミといいなさんな。あれでも燕作にしてみりゃ、精いっぱいにやったつもりなんだが、なにしろ竹童のやつが必死に食ってかかってきたので、すこし面食らったというものさ。だがおまえが木の上にかくれていて、れいの針をふいてくれたので大助かりだッたぜ」

「そうでもなければ、おまえさんは、あんな小さな者のために、般若丸のためし斬りにされていたろうよ」