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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「おかしいなア、この人は……」

と、上から下へ、ソーとなでてみると、へんだ! へんだ! へんな人間! 腰から下がなにもない。

「わッ、化け物ッ」

蛾次郎は芋の串をほうりだして、逃げるわ逃げるわ、むちゅうでにげた――一心不乱に、あかるいほうへかけだした。

夜になっても、今宮の境内はにぎやかであった。そこで蛾次郎は、はじめてホッと人心地にかえった。更けるにしたがって、踊りの輪もちり、参詣の人もたえ、いつか、あなたこなたの燈籠の灯さえ、一つ一つ消えかかってくる。

二

「こんやの宿屋はどこにしようか」

額堂は吹きさらしだし、拝殿の廊下へねては神主が怒るだろうし、と、しきりに寝床を物色してきた蛾次郎。

「ウム、ここがいい。神さまの足もとなら、化け物もでないだろう」

と、四つンばいになって、のこのこはいこんだのは、八神殿の床下。藁蓙を一枚かかえこんで、だんだん奥のほうへいざってきた。

むろん、縁の下はまっ暗で、鼻をつままれてもわからないくらいだが、蛾次郎がはいすすんでいったすこしさきに、なにやら、ゴソ……という音がした。

「ははあ、お仲間がいるな」

そう思って、地べたへ顎をつけながら、じッと闇をみつめていると、しだいに眸がなれてきて、おぼろげながら、人かげがみとめられた。