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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

あまりのことにあきれはてて、忍剣とともに、ただ顔を見あわせているばかり。しばらくの間は、口もきけないほどであった。

「定めしおおどろきでござろう。……しかし、わしが雷神の滝の孤岩の上に、書きのこしておいた通り、これもみな、まえからわかっていることなのでござる。おう、ご不審の晴れるように、いまその次第をお話しいたそう。若君も、まず、そのあたりへ御座をかまえられい」

居士はゆうゆうと、ちかくの石へ腰をおろした。そして、伊那丸へ、

「おん曹子――」と重々しく呼びかけた。

「はい」と伊那丸は、老師のまえへ、神妙に首をたれてこたえる。

「あなたは、甲斐源氏の一つぶ種――世にもとうとい身でありながら、危地をおかしてお父上を求めにまいられた。孝道の赤心、涙ぐましいほどでござる。が、しかし――その勝頼公が世に生きているということは、はたして真実でござりますか? あなたはその証拠をにぎっておいでなさりますか?」

「わしは知らぬが、伝うところによれば、父君は天目山にて討死したと見せかけて、じつは裂石山の古寺にのがれて姿をかえ、京都へ落ちられたといううわさ……」

「さ。それが真実か虚伝かは、まだまだ深いなぞでござるぞ。