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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

やがて、竹童の力がまさったか、その刀をもぎ取ってブクリッ……と水面に浮かびだしてくると、その腰にからんで蛾次郎も、

「ア、ぷッ……」

と鮫のように水をふいた。

「えい、じゃまなッ」

と鞍馬の竹童は、般若丸を口にくわえるやいなや、蛾次郎をけって……サッと抜き手をきったが、かれはまた一方の足をかたくつかんで、死んでもはなすまいとした。

ふたたび三たび、浮いては沈み、浮いては沈みするうちに、さすがの竹童もきょくどに心身をつからして、蛾次郎に足を引かれたまま、ブクブクと深みへ重くしずんでしまった。

そしてついに、湖面へ浮かんでこなかったが、ややしばらくたつと、そこからズッとはなれた竹生島の西浦あたりに、名刀般若丸の血流しをくわえたまま失神している竹童と、その右足にからんでグンニャリした泣き虫の蛾次郎とが、くらげのごとく、フワリ、フワリ……と夜の湖水の波をよりつつただよっていた。

二

「これッ、だれかおらぬか、この渡場のものはおらぬか!」

もうトップリ日がくれた松本の渡船場へきてあわただしく、そこの船小屋の戸をたたいていたのは、加賀見忍剣であった。

「湖水に落ちておぼれたものがある、それを救ってやるいそぎの船を借りたい。