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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
「じゃアひとつ、北国路へでもいって、あの敦賀津の海に紅がら帆をおッ立てている、龍巻の九郎右衛門と合体して、こんどは海べのほうでも荒してやるか」
「イヤイヤ、それもダメなことで」
と、昌仙はいう下からかぶりをふって――
「もうそろそろ北国街道の雪も解けてまいったはず、春となれば、秀吉と、弔合戦をやるべく意気ごんでいた柴田勝家が、北ノ庄から近江路へかけて、ミッシリ軍勢をそなえているでございましょう」
「じゃ、そッちへもいけねえとしたら、いったいどこへ落ちのびたらいいのだ」
「まず、いまのところしずかなのは、東海道でございますな」
「フーン。すると徳川家の領分だな」
「さよう。近ごろ家康と秀吉とは、たがいに、珠をあらそう龍虎のかたち。その仲の悪いところをつけこんで、こんどは家康のふところへ食いいる算段が、第一かと考えます」
「そううまくこっちの註文にハマるかな」
「いくら狡獪な家康でも、策をもって乗せれば、乗らぬものでもございますまい、じつはその用意のために、早足の燕作を物見にやッてありますゆえ、やがてそろそろここへ帰るじぶん……」
と、話ついでに、のびあがって向こうを見ていると、オオその燕作であろう、竹ノ子笠に紺無地の合羽、片袖をはねて手拭で拭きふき、得意な足をタッタと飛ばして、みるまにここへ駈けついた。