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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
と、いかにも狼狽したらしくさわぎだした。
「な、な、なんだ、なにがきたンだ」
「ゆうべ瀬田から伊那丸をむかえてきた、木村又蔵、可児才蔵、井上大九郎なんていうやつの軍兵で」
「そいつア大へんだ、ヤイ、てめえたち、はやく獲物を引ッかついで浜べのほうへ姿をかくせ! オオ蚕婆、おまえがさッき目をつけておいた船があッたな、船で逃げろよ船で――。燕作燕作、向こうだ向こうだ、蚕婆と一しょにいって、はやく船のしたくをしていろい」
まるで、突風に見まわれた紙屑か、白日に照らされた蜘蛛の子のように、クルクル舞いをして呂宋兵衛とその手下ども、スルスルと土手草へとびついて、雑木林の深みへもぐりこんだかと思うと、木の葉ばかりをザワザワとそよがせて、首もみせずに海べのほうへ逃げぬける。
野風呂の秀吉
一
二里さきには桑名の城が見える。
亀山の出城、関、国府の手足まで、むごたらしくもぎとられた滝川一益、そこに、死にもの狂いの籠城をする気で、狭間からはブスブスと硝煙をあげ、矢倉には血さけびの武者をあげて、合図おこたりないさま、いかにも悲壮な空気をみなぎらしている。
その城とは、三里弱の距離をおいて、水屋ノ原にかりの野陣をしいているのは、すなわち秀吉方の軍勢で、紅紫白黄の旗さしもの、まんまんとして春風に吹きなびいていた。