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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
秀吉の部下五、六十騎おかし申そう」
「イヤ、徳川領を通るのがおそろしゅうて、秀吉どののさむらいを借りてきたと申されては……」
「ウウム、名折れといわるか」
「多難は旅の道ばかりではございませぬ」
「そうじゃ。天下は暗澹――いずれ、光明の冠をいただく天下人はあろうが、その道程は刀林地獄、血汐の修羅じゃ。この秀吉のまえにも多難な嶮山が累々とそびえている」
「ましてやおさない伊那丸が、わずかな旅路を苦にしてどうなりましょうか」
「愉快なおことば、秀吉もその意気ごみで、ドレ北国の荒熊どもを、一煽りに蹴ちらしてまいろうよ」
さらば――と別れて、秀吉はたって作戦の用意にかかり、伊那丸は、はからずも手にもどった御旗楯無の具足櫃を忍剣の背に背おわせて、陣のうらかられんげ草のさく野道へ走りだした。
ワーーッという武者押しの声をきいた。
小手をかざして桑名の方をみると、はやくも秀吉の先陣は、ふたたび戦雲をあげて孤城奪取の総攻めにかかり、後陣は鳥雲のかたちになって、長駆、柴田との迎戦に引ッかえしてゆく様子――。
その戦雲をくぐり、敵味方の乱軍をぬけて、伊那丸主従は、やがて名古屋から岡崎へとすすんでいった。