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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
「じゃ、いつもの通り、あそこへ運んでまいりましょうか」
「あ、両方へ同じようにな」
宮内は急にいそぎ足になって、境内のかたすみにある六角堂へ向かっていった。一間の木連格子が、六面の入口にはまっていた。
その一方の錠をあけて、宮内はやさしい声をかけた。うすぐらい御堂の中には、蒲団をかぶって寝ている少年のすがたがある。――ふと見ると、それは泣き虫の蛾次郎だった。
二
「どうだな、蛾次郎さん」
と宮内はそこへしゃがみこんで、体の、容体をききはじめた。そのようすをみると、かれはしばらく病人となって、この可愛御堂に閉じこもっていたものとみえる。
だが、蛾次郎は、蒲団のなかにねてこそいるが、もうあらかたご全快のていとみえて、宮内の顔をみるや否、ムックリとそこへ起きあがった。そして、
「おじさん、ひどいじゃねえか! どうしたンだいッ」
とどなりつけた。
病人にどなりつけられたので、宮内も少しびっくりしたが、二十日あまりもこの蛾次郎の世話をやいて、いまではすッかりその性質をのみこんでいるから、かくべつ怒りもしなかった。
「たいそうな元気じゃの。けっこうけっこう、それくらいな勢いなら、もうじきに元の体になるだろう」