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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「ちぇッ! おつなことをおっしゃったよ。お腹の虫がチャンチャラおどりをしたいとサ」

「きッとか! 蛾次郎!」

「おどかすねえ、琵琶湖の水をのんで、助かったばかりのところを」

「だからだまっていろというのだ」

「そういわれりゃなおさわぐぞ」

「勝手にしろい」

「ざまを見やがれ、へッこみやがって!」

「こいつ!」

と竹童がわれをわすれて立ったとたんに、ヒョイと手をかけると格子のとびらが、観音びらきにサッと開いた。

「あッ――」

はずみを食って、塔の口からころがりだしたせつなに、蛾次郎も仰天して扉をおした。すると、意外や、そこも容易にパッとひらいて、かごの鳥が舞うようにかれも表へとんででる。――

そうだ、菊村宮内は、さッき社家のほうへもどる時、いつものように、そとから錠をおろしてゆかないようであった。なにか考えごとをしていて、ウッカリそれを忘れていたのだ。

それはいいが、さてまたここに一大事。

パッと両方の口からとびだした蛾次郎と竹童とは、王庭に血戦をいどむ闘鶏のように、ジリジリとよりあって、いまにもつかみ合いそうなかたちをとった。

裾野以来――また、京都の八神殿以来――かれとこれとは、いよいよ怨みのふかい仇敵となるばかりであった。