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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

ふつう、兵法で十五間以上と定められてある濠が、どっちへまわっても、陸と城との境をへだてている。するといきなり上からヒューッと一団の火が尾をひいて、ふたりのそばに落ちてきた。闇夜の敵影をさぐる投げ松明である。ヒューッ、ヒューッ、とつづけざまにおちてくる光――

「いたッ、犬走りだ」

と頭のうえで声がしたとたんに、光をたよりに、バラバラと、つるべうちに射てきた矢のうなり、――鉄砲のひびき。

「しまった」と龍太郎は伊那丸の身をかばいながら、石垣にそった犬走りを先へさきへとにげのびた。しかし、どこまでいっても陸へでるはずはない。ただむなしく、城のまわりをまわっているのだ。そのうちには、敵の手配はいよいよきびしく固まるであろう。

矢と、鉄砲と、投げ松明は、どこまでも、ふたりの影をおいかけてくる。そのうちに龍太郎は、「あッ」と立ちすくんでしまった。

ゆくての道はとぎれている。見れば目のまえはまっくらな深淵で、ごうーッという水音が、闇のそこに渦まいているようす。ここぞ、城内の水をきって落としてくる水門であったのだ。

矢弾は、ともすると、鬢の毛をかすってくる。前はうずまく深淵、ふたりは、進退きわまった。