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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

業を煮やした万千代は、意地になって、

「こりゃ食え、食え。くれたものを、なぜ食わんか」

と、よけいに突きつけると、うるさいとでも感じたか、金瞳黒羽の大鷲、嵐に吹かれたようにムラムラと満身、逆羽をたててきた。

と思うと――畳二枚ほどは優にある両の翼が、ウワーッと上へひろがって、白い腋毛が見えたから、びっくりしたお小姓とんぼ。

「そら――ッ」

とまわりを飛びはなれたが、偉大なる猛禽のつばさが、たッたひと打ち、風をあおるとともに、笑止笑止、まるで豆人形でもフリまいたように、そこらの草へころがった。

「アー痛い」

「オーひどい」

やがてめいめい、腰をさすって起きあがってみると、鷲は杉の根もとにケロリとして、とんぼ組の諸君、なにを踊っているんです、といわないばかりの様子である。

だが、えらいやつがいた。

たッたひとり、いまの羽風にも倒されずに、鷲のそばに突っ立ったまま、ジッと腕ぐみをしている少年。

お小姓とんぼのなかにも、あんな強胆な者がいたかしら? とみんなが眼をみはって見ると、ちがッてるちがッてる、肩つぎのある筒袖に、よごれきった膝行袴を穿き、なりにふさわぬ太刀を差して、鷲にも負けない眼の持ち主。