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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
「ウム、ではもう牢内の、武田伊那丸、加賀見忍剣、木隠龍太郎、その三人を都田川にひきだして首を洗って斬るばかりか」
「御意。もはや、裾野の雲は晴れました」
「甲斐ざかいの憂惧がされば、これで心を安らかにして、旗を中原にこころざすことができるというもの。家康にとって、伊那丸はおそろしい癌であった。幼少ながら、かれの行く末は浜松城の呪いであった。それを捕らえ得たのは近ごろの快事、いずれも斬刑のすみしだいに、恩賞におよぶであろうが、その日のくるまでは、かならず油断せまいぞ。よいか、半助」
さては、家康のごきげんなわけは、伊那丸が捕らえられたことであるか。と一同はうなずいて、徳川家のため、暗雲の晴れた心地がした。そして、城を退ったものは、このうわさを城下につたえて、その日のくるのを、心待ちにしていた。そして、かつて軍神の信玄が、甲山の兵をあげて、梟雄家康へ、乾坤一擲の血戦をいどんだ三方ヶ原。
そのいわれのある古戦場で、その信玄の孫が、わずかふたりの従者とともに、錆刀で首を落とされるとは、なんと、あわれにもまた皮肉な因縁よ!
と、気の毒がるささやきもあれば、心地よげに嘲む三河武士もある。