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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「そうだ!」と蔦之助も嘆声をあわせて、

「このうえは、砦にのこる兵をあげて、小勢ながら裾野へくだり、怨敵家康の城地へ、さいごの一戦を」

みなまでいわせず、民部は首をよこにふった。

「そのとむらい合戦なら、すこしも、いそぐことはありますまい。いつでもできることじゃ」

「といって、むなしく、手をつかねておられましょうか」

「むろん、どうにか工夫をせねばならぬ。しかし、人数をくりだして、とおく浜松へ着くころには、若君のお命が、すでにないものと思わねばならぬ」

「おお、それもごもっとも」

と、蔦之助はまた悶々とだまって、いまはただ、この民部の頭脳に、神のような明智がひらめけかし、とジッと祈るよりほかはなかった。

「ともあれ、若君のご一命や忍剣や龍太郎を、いかにせば救いうるか、それが目睫の大問題であると思う。いたずらに最後の決戦をいそいで、千や二千の小勢をもって、東海道を攻めのぼったとて、とちゅうの出城や関所でむなしく討死するのほかはない。それでは、きょうまでの臥薪甞胆、伊那丸君のおこころざし、すべては水泡となり、また世の笑われぐさにすぎぬものとなる」

やはり民部の説は常識であった。