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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「ウム、方々の落武者や浪人で、飯の食えない侍などは、よく名のある者のすがたと偽名をつかって、無智な在所の者をたぶらかして歩く手輩がずいぶんある。おおかたそんな者たちだろう」

「だって親方、それにしちゃ、あんまり似過ぎているじゃありませんか。ちょっとそばへいって、わたしが目利きをつけてきましょう」

「これッ、よけいなとこへ突っ走るな」

「へい!」

「ばかめ、すぐに調子に乗りおって!」

「でも……」

と蛾次郎は河豚のようにプーッとふくれた。――なにもそう頭からこんなことをガンと叱らなくッたってよかりそうなもんだと。

と思ったが、卜斎に袖をひっぱられたので、気がついた。うしろに、いやな目つきをした町人が立っている。

うさん臭い目つきをして、じぶんたちの挙動に注意しているらしい。蛾次郎は口をむすんで、あわてて夕星へ顔をそらしながら、

「親方、そろそろ晩になりましたネ」

と空とぼけた。

「もどろうかな、ご城下へ」

「帰りましょうよ。はやく、宿屋のご飯が食べたい」

空の星がふえるのと反比例に、地上の人影はぼつぼつへっていた。ふたりは矢来のきわをはなれながら、それとなく気をつけたが、いつのまにか疑問の三名は忽然とかげを消して、あたりのどこにも見えなかった。