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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
村長の話をきけば、数日前に、この家へとまって飄然と去ったという妙な老人というのこそ、どうやら果心居士であるような気がする。
四
躑躅ヶ崎の館というのは、甲府の町に南面した平城である。
平城というのは、天嶮によらず平地にきずいた城塞のことで、要害といっては、高さ一丈ばかりの芝土手と、清冽な水をあさく流した濠があるだけだ。
土手は南北百六間、三ツの郭にわかれ、八門の石築に出入りを守られている。
青銅瓦のご殿の屋根、樹林からすいてみえる高楼づくりの朱の勾欄、芝の土手にのびのびと枝ぶりを舞わせている松のすがたなど城というよりは、まことに、館とよぶほうがふさわしい。
甲斐の土は一歩も敵にふませぬ。
終生このことばをもって通した信玄には、ものものしい要害は無用であった。けれど、勝頼が敗れたのちは、その躑躅ヶ崎の館も、織田の代官の居邸となり、さらにそののち火事泥的に甲府へ兵をだしてかすめとった小田原の北条氏直が持主にかわった。
氏直が甲府を手にいれたと知ると、家康は眉をひそめた。
「もし小太郎山と甲府とが結びついたら? どうだろう?」
想像するだけでもおそろしいことだと思った。