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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
「頭数は?」
「六十人ばかりで……」
「よし、向こうへいけば、まだ人数がいるはずだから、これだけでいいだろう。五足ずつの草鞋と三日分の焼米を腰につけて、すぐに西門のお濠ぎわへ集まりなおせ!」
さて。
躑躅ヶ崎の館をでた六十人の鉱山掘夫。
伊部熊蔵にひかれて、甲府の城下を西へ西へとすすみ、龍王街道から釜無川を駈けわたり、やがて、山地にさしかかった。
「どこだい、ここは」
「御勅使川の裾じゃねえか」
「ふーむ、まだ山はあさいな」
「どうやら、ゆくさきは信濃か飛騨だぜ」
ドンドンドンドン、駈けていく。
「沢へでたな」
「水びたしじゃ草鞋がたまらねえ」
「向こうの山は?」
「大唐松よ」
「峠へきたな、どこだいここは」
「べらぼうめ、鉱山掘夫がいちいち山の名をきくやつがあるものか。トノコヤ峠、雨池の下り勾配、ヌックと向こうに立っているのが、甲信駿の三国にまたがっている白根ヶ岳と鷲の巣山だ」
「だが、オイ」
「なんだ」
「いったいどこまでいくんだろう」
「さあ、そいつはおれにもわからねえ、さきへいくお目付の熊蔵さまに聞いてみねえ」
「へんだな、妙だな、だんだん鉱気のねえ山へはいっていくぜ。打つかるなア、水脈ばかりだ」