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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
今しがた、宿から帰ってみれば、お母さまはズタ斬り、家のなかは乱暴狼藉、あやしいやつは、汝よりほかにないわッ」
目に、いっぱい溜め涙をひからせている。憤怒のまなじりをつりあげて、いッかなきかないのだ。この若者は浜松の町で、稀代な槍法をみせた鎧売りの男で――いまは、この島に落ちぶれているが、もとは武家生まれの、巽小文治という者であった。
「うろたえ言をもうすな、だれが、恨みもないきさまの老母などを、殺すものか」
「いや、なんといおうが、おれの目にかかったからにはのがすものか」
「うぬ! 血まよって、後悔いたすなよ」
「なにを、この朱柄の槍でただひと突き、おふくろさまへの手向けにしてくれる。覚悟をしろ」
「えい! 聞きわけのないやつだ」
と、龍太郎もむッとして、槍のケラ首が折れるばかりにひッたくると、小文治も、金剛力をしぼって、ひきもどそうとした。
「やッ――」とその機をねらった龍太郎が、ふいに穂先をつッ放すと、力負けした小文治は、槍をつかんだままタタタタタと、一、二間もうしろへよろけていった。――そこを、
「おお――ッ」ととびかかった龍太郎の抜き討ちこそ、木隠流のとくいとする、戒刀のはやわざであった。