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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「こんなことならついてくるんではなかった」

と、いまさら臍をかんでも追いつかない、後陣には石見守の家中がうしろ巻をしているといえば、逃げだしたところで、すぐと捕まって血祭りになるのは知れている。

「だが、こんな奥ぶかい山地に、だれのとりでがあるのであろうか」

と、そこで一同、はじめて麓から山を見あげて見たが、峨々たる岩脈と雲のような樹林の高さを仰ぎうるばかりで、城らしい石垣も見えず、まして、ここに千も二千もの人数が、立てこもっているとは思われないほど、森々として静かである。

二

ぜひなく観念した鉱山掘夫は、伊部熊蔵の指揮のもとに小太郎山の東のふもと、木や草をわけて八方へ散らかった。

なにせよ、荒仕事と山には馴れきった者ばかり、手に手に鷹のくちばしのように光る鉱石槌を持ち、木の根にひっかけ、崖によじ、清水と岩脈のかたちをさっして、それらしい所をさがし廻っているうちに、ひとりが深い熊笹の沢の上で、

「あった! 間道が見つかった!」

と、大声でさけんだ。

小頭の雁六が、ピューッと口笛を一つ吹くと、上から、下から伊部熊蔵をはじめすべての者のかげが、ワラワラとそこへ駈けあつまった。