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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
咲耶子は不安にたえぬように眉をひそめた。
夕餉どきに帰りを忘れてあそんでいる弟を、父や母が怒らぬうちにとハラハラしてさがす姉のような愛が、彼女の眼にこもっていた。
「竹童さアーん……」
そうして、自分の身の危険を、一歩一歩とわすれていった。
「もしかすると?」
露にぬれる草履のグッショリと重くなったのも感じないで、例の樺の林のほうへかけだして見た。林のあさいところの木は、一本一本薄い夕陽の紅になすられているが、奥のほうはもう宵のような闇がただよっている。
そこでもまた呼んで見た。
五たび六たびも、あかずにかれの名をよんだ。
だが林の奥から、さびしい木魂がかえってくるだけで、オーイと、あの快活な竹童の返辞はしてこない。
「おや?」
咲耶子は妙な音にきき耳を立てて、林のやみへ眸をこらした。なにか非常に大きな力が樹木をゆすったように思える。
われをわすれ、樺の密林へ馳けこんだ。見ると、なかでも大きな一本の樺の木に、あの竹童の飼っている荒鷲がつながれてあった。その飼主の名を呼んだので、羽ばたきをしたのであろうと、愛しく思えたが、
「おまえをかわいがっている竹童さんはどこへいったか?」