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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「や、や、これは? ……」

と井楼の梯子を登ってみると、そこにも、眼を光らしていなければならないはずの見張役が、やぐら柱の根もとに、爪を立ったまま、息が絶えていた。

「毒! ……」

裏切り者のおそろしい詭計をさとって、彼女は、慄然となる胸をだきしめた。

と同時に咲耶子はまた、自分と竹童の肩にあずけられている責任をつよく思う。

「もしも、一党の方々のかえらぬ留守に、このとりでを失うようなことがあったら――」と。

そう考えるだけでも、ふさふさした黒髪が夜風に逆立ちそうだった。

「オオッ」とわれにかえると咲耶子。

「――この山城は三段郭、奥の砦のものは毒水をのんでたおれたにしろ、まだ八合目の外城のものは、無事でなにも知らずにいるかも知れない」

そう気がついて、やぐら柱にかけてあった陣貝の紐をはずし、金嵌の法螺貝にくちびるをあてて、息のあるかぎり吹いてみる。

バウー……バウウウウ……ッ。

序破急に甲音三声、揺韻をゆるくひいて初甲の音にかえる、勘助流陣貝吹き、「変アリ部ニツクベシ」のあいずである。

だが、さけんで反応がなかったように、その貝がとおく八合目へ鳴りひびいていっても、外城の柵から、こたえ吹きの合わせ貝が鳴ってこなかった。