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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「そしてグウグウ寝ていやがる」

「眼がさめると、おれたちがこしらえた汁や飯をたらふくくらって、自慢話でいばりちらす……考えてみると、兵糧方はわりがわるい」

「オイ、ぐちをこぼしてもしかたがねえ。早く水を代えておこうじゃねえか」

「そうだ! 陽がのぼってきた」

ふたりは水の手の水門をのぞきこんだ。そして、かんぬきをぬいた。

「オヤ」

「どうした?」

「藻がからんでいて開かねんだ」

「あッ……おい、藻じゃねえぞそれは。死骸だ! オオ土左衛門だ」

「えッ、人間か?」

と、ひとりがかんぬきの先で突きだした。

もくり……と毒水の波紋がよれたかと思うと、俯ッ伏せになった水死人が水草の根をゆらゆらとはなれる。

蒼ぐろい透明のなかにたれている手が、ギヤマンをすかしたような色に見えた。それは、夜が明けようとするまえに、卜斎のためこの池に投げこまれた竹童だ――手につかんでいるのは般若丸の刀である。

浮いている髪のさきから、ツイと、水馬が二、三匹およいだ。

二

兵糧方の足軽が、水面に目をみはっていた時だ。

とつぜん。

あらしのような風の音が、宙をうなってきたかと思うと、ふたりの目の前へ、空からなにか勢いよく落ちてきた。