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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

ちょうど、甲府の城下へはいってから、二日か三日目の午である。宮内は、馬場はずれの飯屋の縄すだれを分けてはいった。

すると、そこのうすぐらい土間のすみに、生意気なかっこうをした少年がひとり、樽床几にこしかけ、頬杖をつきながら箸を持っていた。

「おい、おやじ」

と、その生意気が年上の亭主にいう。

「なんだいこの魚は? いくら山国の甲府だって、もうちッと、気の利いたものはないのかい」

「それはやまめといって、みなさまがおよろこびになるお魚でございますがね」

「みんな田舎者だからよ。おれなんか、京都であんまりぜいたくをしてきたせいか、こんな古い物は食えねえや、ベーッ、ベーッ、あー、まずい。なんかほかの食べる物をだせやい」

「じゃ、こんにゃくとお芋はどうでございましょう」

「芋なんて下等なものはきらいだよ」

「へえ、蓮根、焼豆腐、ほかには乾章魚の煮ましたものぐらいで」

「ちっとも、おれの食慾をそそらないぞ」

「さようですか」

「乾章魚をおだし、がまんして食べてやるから」

と、箸で皿をつッころがした。

おそろしくいばった生意気、まるで大名の息子のようなことをいっている。やはり都会の少年の中には悪い癖があるなと、菊村宮内、なんの気なしにひょいと見ると、都会の少年ではない裾野育ち――竹生島ではさんざんお粥をうまがって食べたかの蛾次郎だ。