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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「あれッ?」

と、独楽につれていた見物の眼は、ふッと、宙にまよってウロウロした。おどろいたのは蛾次郎太夫で手のうちの玉をとられたという文字どおりに狼狽して、

「おや、コマは? コマは?」

と見まわしたが、その時、フと、気がついて見ると、見物のなかから一本の紅い杖がスッと伸びて、落ちてくる独楽をその尖端で受けとめたかと思うと、紅い棒を坂にしてたくみに独楽を手もとへすべらせ、ひょいとふところへしまいこんで、小憎いほどな早芸、向こうへすまして歩きだしてゆくふたりの人聞があった。

「オッ?」

と、群集はあッけにとられ、蛾次郎は目をまるくしてあんぐりと口を開いている。

横合いから投げ独楽をすくい奪った紅い棒と見えたのは、朱漆をといだ九尺柄の槍であった。

そして、独楽をふところに入れたのは、白衣に戒刀を帯びた道者笠の六部で、つれの侍にかりうけた朱柄の槍をかえし、なにかクスクス笑いながら、あとのさわぎを知らぬ顔して、柳の馬場から濠ばたのほうへスタスタと足を早めてゆく。

二

「ははははは」

人通りのない濠端までくると、朱柄の槍を杖についた、一方の侍が声をだして笑いだした。