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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「はい、浜松城をでてまいりましたのは宵でしたが、とちゅう空でおそろしい霧にまかれ、やッといまごろここに着きましたが、ここへくると、またどこかで狛笛の音がしていたせいか、ご門のほうへは降りてゆかず、とうとうこの源氏閣の屋根の上へ、翼をやすめてしまいました」

「そして、その鷲はどうしましたか」

「閣上の擬宝珠柱に結いつけておきました」

「あの鷲は、いぜん、わたしもよそで見たことがありますが、どうしておまえのものになっているのか、わたしは、ふしぎでならない気がする」

「さればです――」

と余一は袴の両膝に手をあらため、小ざかしげな眼をパチッとさせて、

「あの金瞳の黒鷲ともうしますものは、今年の春のくれつ方、三方ヶ原で万千代さまが、にせものの独楽まわしにとられたものでござります。で、浜松のお城でも、万千代さまのおのぞみぞと、その後、諸処ほうぼうへ足軽をかけらせ、鷲のゆくえをさがさせておりましたが、トンとすがたが見つかりません。しかるところ、さきごろ裾野の猟人が、この黒鷲が落ちたところを生け捕りましたとおとどけにおよんだので、見ると、どこでやられたのか、股と左のつばさの脇に、二ヵ所の鉄砲傷をうけております。